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2011年7月20日 (水)

読物 『小泉官邸秘録』

「各省には『対案を出せ』と言え。反対ではなく対案だ。方針を示して具体案を用意して、大臣自身が諮問会議に出席して我々の前でプレゼンするように指示しろ」

P.61

 当時外務省は、外交機密費流用問題で国民の強い批判を浴びており、外務省改革は急務かつ不可避の課題だった。その意味で、田中大臣の行動力(というか破壊力)には期待するところは非常に大きかった。彼女を外務大臣に起用した総理の真意も、きっとそのあたりにあったのではないだろうか。
 追い追いこの本でも述べるが、この問題に限らず、外務省という役所はいろいろな意味で問題のある役所であった。重要な外交情報が総理に上がってこなかったり、外遊日程や首脳会議のセットでも、官邸の意向と関係なく事務的にお膳立てをし、総理は黙ってそれに乗ってシナリオ通り演じてくれればいいといわんばかりのブリーフを平気でしたりする。海外勤務が長いからなのかどうか知らないが、組織としての統率が極めて弱く、個々の幹部職員が個人の判断で勝手に記者に情報を漏らしたりすることもある。語学グループ別の「スクール」があり、中には日本の外交官なのか相手国の在外事務所なのか分からないような政策判断をする輩がいたりもする。在外公館ではまるで王様気分のような大使がやりたい放題で館員や公費を公私混同で使ったりする例もあった。表沙汰にならない女性スキャンダルも他の省庁に比べて多い。田中大臣は「外務省というところは伏魔殿だ」と言ったが、それはある意味で当たっていると私は今でも思っている。
 国民もまた、田中大臣の行動力(というか破壊力)に大いに期待した。田中大臣も国民の高い人気・支持を背景に「外務省改革」に積極的に取り組もうとしたことは事実だ。
 しかしながら私は、そんな田中大臣の行動力を高く評価しつつ、同時に、仕事の進め方というか、組織のトップリーダーとしての技量に一抹の不安を覚えていた。総裁戦当時から、彼女は応援演説のスケジュールを自分で勝手に変えたり、ドタキャンしたりすることが少なからずあった。小泉総理就任直後の参議院選挙でもこの状況は変わらず、党本部の事務方が悲鳴を上げるほどだった。事務所と調整しようとしても事務所の秘書には全く調整能力がなく、誰も本人の気まぐれを諫めたり抑えたりすることができない。おまけに秘書がクルクルと代わるのも気になった。一般論として秘書が居付かない事務所は要注意である。議員と秘書との間に安定した信頼関係ができない、ということであり、議員本人の人格・仕事振りに問題があるか、秘書の採用ルートに問題がある(逆に言えばいい秘書が採用できない)ことが想定されるからである。

P.108

 中東とは何か
 私もこの頃、政府の動きを横目で見ながら、日本として中東にどう対応すべきかを考えた。当時中東地域への石油の依存度はEUが二二.八%であったのに対し、日本は八八・九%であった。誤解を恐れずに単純化すれば、中東は日本にとってはEUにとってよりも、四倍重要であるということだ。中東の平和が揺らげば即、日本の産業に影響する。日本にとっては中東の平和が一番であるということだ。
 また、私はこの頃までに中東の情勢を見ながら、以下のような思いを抱いていた。中東の国々というのは言葉は悪いが「不労所得」で生きている国家群であり、指導者の役割というのはその冨を国民に分配すること、ということだ。中東の指導者にはサウジの王族、フセインのような軍事独裁者、イランのような宗教指導者、それにパレスチナ解放機構(PLO)の故アラファト議長と、いろいろなタイプがいるが、成功している指導者には共通点がひとつある。それは、こうした「冨の分配」を上手に行っているということだ。民主主義国では所得に応じた納税の義務を負うが、これらの国には納税の義務はない。一方的に冨を配分することが重要なのだ。これは、軍人でも同じである。イラクの例を見れば、軍人も公務員だし、愛国心で軍に志願しているのではなく、冨の分配を受けるうえで有利な地位だということで集まってきているのだ。しかし、三月二十日の米軍の侵攻の直前は給料が二カ月くらい遅配していたとのことだ。だから、米軍が侵攻したらほとんどもぬけの殻、軍人も軍服を捨てて一般人に隠れてしまうということになった。一方、九〇~九一年の湾岸戦争ではイラク軍は奮戦したが、これはボーナスの直後だったからである。こうした認識をどれだけ米国が共有しているのか、私は大変不安であった。
 一方、米英軍のイラクへの攻撃は苛烈を極め、四月九日、攻撃開始からわずか二十日ほどで首都バグダッドが事実上陥落した。戦闘の中心はイラク北部に移っていった。私はこの頃、当時のシェア駐日米公使(現駐マレーシア米公使)と食事をした際、外交の素人の私の見立てとして、イラクに対する米国の姿勢に疑念を持っていることを率直に述べた。すなわち「こうした『冨の分配の国家群』に対しては、必ず雇用を満遍なく生み出すようにしなければならない。こうした国を民主主義国家、資本(自由)主義国家に変えて、納税の義務を国民に負わせるに至るまでには三十年から四十年はかかるであろう。どのような形でも冨の分配を考えなければいけない。そうしなければ治安悪化は必至である。こうした国では民主主義よりも雇用の創出が急務である。小泉は、日本の国際貢献を考え、日米同盟を考え、米国に協力し、イラク復興に参加しようとしている。そうした小泉の気持ちを考えると、米国が対応を誤って治安が悪化するのを見るのはあまりにつらい、米国はよく考えてほしい」と言ったのである。
 当時私としては、情勢が落ち着いたら、日本としてはメソポタミア湿原の復元をやっていくべきではないかと思っていた。湿原の復活なら百万人単位で雇用を創出することができる。そうした「日本らしい」支援を行う上で大事なことは、イラク国民に「日本は違うぞ」と認識してもらうことである。そこで私は、民間の団体の知恵も聞いた上で、反フセイン運動で当時フランスに亡命していたアル・リカービ氏を日本に招聘してはどうかと考えた。日本がイラクの国民から信頼を得るためには、イラク国民の支持の高いリカービ氏と小泉総理に会ってもらおうと思ったのである。この構想は、十二月になってようやく実現することになった。

P.172

 年末の十二月二十七日には、懸案の郵政民営化情報システム検討会議の報告が出された。
「二〇〇七年四月分社化について、管理すべき一定のリスクが存在するとしても、制度設計や実際の制度運用において、適切な配慮をすれば、情報システムの観点からは、暫定的に対応することが可能である」との結論である。

P.251

今ではほとんど読まなくなってしまったが、漫画は幼少の頃から親しんでいた。漫画は現在でも諸悪の根源とされるエンターテインメントの代表だが、個人的には様々な興味へのインデックスの役割を果たしてくれたと考えている。
同じく、今ではほとんどやらなくなってしまったが、ゲームも然り。これまたなにかというと悪しき原因として取り沙汰される傾向の多いホビーだが、電源要・不要問わず、それなりに遊んできた。こちらは自己分析に役立ったと感じている。自分が何に向いていて何に向いていないか知るためのヒントを感じ取れたということだ。TRPGにおける交渉ごとはそこそこうまく狙った落としどころへ誘導できることが多いが、ディプロマシーのような交渉ごとは人望のなさが露骨に出てロクなことにならない、とか。ゲームを刹那的に楽しむ性癖があり、ギャンブルにのめりこんではいけない、とか。サイコロに人生を見た、とか。

さておき、森を見て木を見ていなかったということに、遅まきながら気付いた。
小泉純一郎という総理大臣について、その政策の是非を問う素養はないが、交渉ごとに非常に長けた人物なのではないかと感じられる。


引用したうち最後の一文は、まったくもってなにも保証しない、まったく内容のないものだと感じられたことは余談である。
調べてみたら報告書が見つかったので読んでみた。以下、その抜粋。

また、情報システムの問題とされるものには、実は業務・事務フローの問題であるものも多い。

新システムへの切替直前における稼動の適否に関する判定会議で、稼動開始が適当でないと判断された場合に、システム切替の延期ができるセーフティネットを担保する仕組みを設けること。

これらは、ベンダーが顧客に理解を求め、顧客に受け入れていただけないことのひとつである。人間力はシステムに換算しにくい。
これらのことは政府のお墨付きになったと解釈していいのだろうか。
以下、続抜粋。

期末決算についても相当程度の期間・手作業を要する等、民営化のために対応を要する。

2007年4月に民営化・分社化を実施するため、郵便局業務の基盤となる情報システムの開発対象を大幅に絞り込む、所謂「暫定対応」については、以下の問題がある。
①「システム開発に伴うリスク」があまりにも大きい
②仮に、システム開発が幸いに目立ったトラブルなく間に合ったとしても、多くの問題点がある
③リスクが民間会社ではとれないほど大きく、リスク回避策も明確でないため、システム会社が開発を受託するか疑問。仮に受託したとしても極めて高コストとなるおそれ

いずれにしても、決算関係において、日計表の見直し等、業務プロセスをシステム対応可能なように改善していくことは、今からでもできることであるし、すべきことである。

これらは、郵便局の当時の業務の実態を垣間見せるものである。
1500万件のデータを処理するようなシステム構築に関わったこともなければ、1500万件のデータを処理するような業務に関わったこともないので、大変なんだなあという感慨を抱くのみだが、はてさて。

なお、この報告書には『Waterfall』や『Spiral』など古代のコトバが用いられていたことも余談である。モノゴトを語るのに最新の用語は必要不可欠ではないが、いやはや。

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