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2010年8月18日 (水)

読物 『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』

 東郷局長の仕事スタイルは小寺課長と対照的だ。極端な能力主義者で、能力とやる気のある者を買う。酔うと東郷氏がよく言っていたことがある。
「僕は若い頃、よく父(東郷文彦、外務事務次官、駐米大使を歴任)と言い争ったものですよ。父は僕に、『外交官には、能力があってやる気がある、能力がなくてやる気がある、能力はあるがやる気がない、能力もやる気もないの四カテゴリーがあるが、そのうちどのカテゴリーが国益にいちばん害を与えるかを理解しておかなくてはならない。お前はどう考えるか』とよく聞いてきたものです。
 僕は、能力がなくてやる気もないのが最低と考えていたのだが、父は能力がなくてやる気があるのが、事態を紛糾させるのでいちばん悪いと考えていた。最近になって父の言うことが正しいように思えてきた。とにかく能力がないのがいちばん悪い。これだけは確かです」

単行本 P.66

 鈴木氏がここまで言うのならと、私も腹を括ることにした。そして、紙を取り出し、相関図を描き、一九四一年初頭の国際情勢について、説明し始めた。
「現在の状況は、独ソ戦直前の国際情勢に似ています。以下のアナロジーでいきましょう。
 田中眞紀子ヒトラー・ドイツ総統です。
 外務省執行部はチャーチル・イギリス首相です。
 小泉純一郎はルーズベルト・アメリカ大統領です。
 そして、鈴木先生はスターリン・ソ連首相です」――。
 鈴木氏は「俺はスターリンなのか」と怪訝な面もちで問いかけるので、私は「そうです」と言って説明を続ける。
「ドイツとイギリスは既に戦争を始めています。イギリスは守勢なので、アメリカの助けが欲しいのですが、アメリカは当面、動きそうにありません。そこで、決して好きではないのですが、ソ連を味方に付けようとしています。外務省執行部は、鈴木先生と田中大臣が戦争を開始すれば大喜びでしょう。
 対田中戦争で外務省執行部は鈴木大臣と同盟を組むでしょう。しかし、これは本当の同盟ではありません。戦後に新たに深刻な問題が生じるでしょう。それに外務省内では田中大臣の力に頼り、権力拡大を考えている人たちもいます」
 鈴木氏は私が描いた相関図を手に取り、「あんたはどこにいるんだ」と問う。
 私は、「当時、チェコスロバキアの亡命政権は、ロンドン派とモスクワ派に分かれていました。モスクワ派首班のゴッドワルド・チェコ共産党書記長といったところでしょう」と答えた。
 すると、鈴木氏は、「外務省は勘違いしないことだな。俺は今のところスターリンだが、もしかするとムッソリーニ(イタリア首相)になり、ヒトラーと手を結ぶかもしれない」と冗談半分に微笑んだ。

同 P.74

 科学技術庁ではそれができたかもしれないが(田中女史は村山富市政権時代に科学技術庁長官をつとめたが、その時に官房長官を更迭したことがある)、うちではそうはいかない。これで組織全体を敵に回した。新聞は婆さんの危うさについてきちんと書いているんだけれど、日本人の実質識字率は五パーセントだから、新聞は影響力を持たない。ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で物事は動いていく。残念ながらそういったところだね。その状況で、さてこちらはお国のために何ができるかということだが・・・・・・

同 P.76

「僕は元気だ。世の中の政治家は、とてもよい政治家とよい政治家に分けることができる。橋本龍太郎、森喜朗はとてもよい政治家で、僕はとても尊敬している。フリステンコもとてもよい政治家で、僕はとても尊敬している。鈴木宗男もとてもよい政治家で、僕はとても尊敬している。それに較べて田中眞紀子はよい政治家だ。だから何も問題はない。よい外相に巡り会い、人生にはいろいろなことがあると思っているだけだ」
 ロシア人はみんな大笑いした。「嫌い」という言葉を一言も使わないで、私の気持ちを率直に伝えることができた。

同 P.102

間違いなく95パーセントに属する身の上としては、著述に対してアレコレナニすることはできない。意志の問題ではなく、能力の問題で。
この手の読み物は、どこかにテンプレートがあるんじゃないかと思えるくらい、雰囲気が似通う。文調、構成、手法など。編集者の指導なのか、良き協力者に恵まれているということなのか。似たような才能をもっているということなのか。どういうことなのだろう。

さておき、ナニすることはできなくても、感じることはできる。読み物としては抜群に面白い。
なぜだかはわからないが、本書にエーコの翻訳本の味わいを感じ取ってしまったのは、著者のレトリックに少なからず魅せられてしまったからに違いない。


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