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2010年7月 4日 (日)

読物 『可能性の種子たち』

 先生の奥様に、ご家族のアルバムを見せてもらったことがある。写真撮影が趣味であった先生は、一枚一枚の写真に、使ったレンズや絞り、シャッター速度などの撮影データを丹念に書き込んでいた。そしてページごとに説明や感想などが書き込まれていた。その中に、ご家族で高松の動物園に行った時の写真があり、横の数行の文字に私たちは心を奪われた。
「ラクダを見る度に、戦乱にあけくれた蒙古での若かりし頃の自分を思う。祖国に住み、子どもと遊ぶこの幸福感。体験しない者にはわからぬよろこびである。平和、そして自由、愛する者を持つ楽しみ、これこそ真の極楽である」

P.96

「わしはな、この海を根城にして海賊をやろうと思うとったんじゃ」
 瀬戸内海を渡るフェリーの甲板で先生はつぶやいた。思わず顔を見ると、先生は穏やかな海を見つめたままさらに続けた。
「戦争に負けた国で次に起こるのは必ず内乱だ。これは歴史が証明しとる。もしそうなったら、若い連中を率いてひと暴れしてやろうと思うとった」

 先生の話はこうである。
「敗戦後の日本で次に起こるのは、日本人同士が戦い合う内乱である。無論それは代理戦争であり、諸外国による日本国争奪戦である。後の朝鮮動乱然り、ベトナム戦争然りである。もしそうなったら、諸外国に対して抵抗運動を起こす」。方法はこうだ。「戦後間もなく混乱に紛れて軍の潜水艦を盗んだやつがいる。いざとなったらその潜水艦を分捕って、瀬戸内海を根城に諸外国に一泡吹かせてやる」
 先生の言う海賊とはこれである。おそらく先生の脳裏にあったものは、一八九九年、中国大陸に起こった義和団の乱であろう。列強諸国に食い物にされていた清朝中国で、三百年にわたる滅満興漢の旗を納め、扶清滅洋の旗を掲げて抵抗運動を繰り広げたのは、漢民族の各派の拳士たちであった。彼らは祖国のために義和団となって団結し、拳と棒を武器に列強諸国軍の銃火の前に身を挺したのである。彼らの抵抗運動は中国全土に広がり、戦いは一年に及んだ。しかし、さしもの義和団も近代兵器の前にはかなわず、ついに拳士たちの抵抗は潰えたのであるが、銘肝すべきはその心意気である。

P.99

 また、もう一人の主役、やがて唐の太宗となる李世民を演じた王光権氏は京劇の名優で、この映画では数少ないプロの役者であったが、武術もよくした。二歳年長の彼と私とは気が合って、互いにティーティ(弟)、コーコ(兄)と呼び合い、よく話をした。
 ある時皆でささやかな宴を開いたとき、彼がこっそり私を呼んで外に連れ出した。何かと思っていると、もうほとんど絶えてしまったと言われているある拳法の型を教えると言う。そのまま彼と二時間ほど、汗だくになって技を行った。それまで見たことのない精妙な組み手の技であった。突き蹴りのみならず、相手を捕らえる柔法系の技もあった。私たちと似ていると思えるところもいくつかあった。「やはりあったのか」と私は思った。

P.221

道場の少年部との関わり合い方について。
修行の方向性について。

重要な示唆をいただくことができた。

一ヶ月に一度の講習会では、存命の頃の開祖や高弟を直に知る先生がお見えになることもあり、技術だけでなく、教えとその実践、個人的な開祖とのエピソードを紹介してくださることもある。
曰く、「開祖は写真記憶を有していた」とか。先だって読了した『ジョーカー・ゲーム』と似たようなエピソードを紹介され、縁の奇しなることを思う。

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