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2009年8月21日 (金)

読物 『阿片王 満州の夜と霧』

凡俗に堕ちて 凡俗を超え
名利を追って 名利を絶つ
流れに従って 波を揚げ
其の逝く処を知らず

「里見家之墓」墓碑銘

恐竜帝国帝王ゴールは、自らの種に科せられた業を知るがゆえに、地上侵略の早期達成を図った。
地上の調査に余念がなかったのは、侵略の第一歩として地上で最大の兵器を所有していた早乙女研究所関係者を襲撃したことからも明らかである。ゲッターロボを無効化すれば、地上侵略は叶うとみたゴールの戦略は正しい。
しかし恐竜帝国はこれを果たせず、種の存続を第一としたバット将軍は帝王ゴールを見捨てる形で撤退した。 石川賢的巨悪の象徴であったゴールは、この機を見計らっていた百鬼帝国に不意打ちを受け、あえなく果てる。
巨悪を圧する悪を表現するに、実にわかりやす手法といえよう。


『二人の首領』で戦後日本のフィクサーとして描かれた笹川良一は、Chaotic Evilたる児玉誉士夫と比してLauful Evilと見受けられた。
『破天荒人間笹川良一』では、山本五十六と個人的親交のあった様から始まり、その生い立ちが描かれていた。『二人の首領』では児玉と対立したと読めるが、同著ではいわゆる児玉機関設立の経緯として、笹川がまず役目に就くことを請われ、児玉を推挙して自らは退いたとある。
いずれにせよ、戦後日本を語るに欠かせない巨人として描かれていることは間違いない。

本書では、その笹川が小物と評されている。「阿片王」に金をせびりに来ていた人物の一人である、と。
笹川を小物と評さざるを得ない人物とは何者か。
昨年から幾つか、大東亜戦争近傍の情報を収集してきたが、いわゆる戦争的側面を主としたそれら情報の中には阿片という単語は一度も登場しなかった。同時期の馬賊を主眼とした書を手にしてようやく阿片の介在を知り、今では、満州を語るには欠かせない一大要素であることを理解している。
民間人でありながら、いや、だからこそ、金の成る木たる阿片の取引を任せられたのは、里見甫(さとみはじめ)という新聞記者あがりの日本人だった。軍人が蓄財に走ることは関東軍内外によく理解されていたことであるらしく、関東軍からの嘱託で、自身は直接取引に関わることなく采配を振るったという。権益は巨大だったが、無私無欲に振舞い、それを濫用することはなかったという。
戦後のフィクサーの弱みも恐らく握っていたに違いないが、晩年の里見は戦後大成した政治家やいわゆる大物らのようにはならず、世間に埋もれるようにひっそりと生きたという。里見に世話になった大物らが里見の遺児のために奨学基金を募ったというから、遺産というべきものは一切なかったのだろう。そしてその基金名簿が本著執筆に至る第一歩であったという。

本著は、著者の取材と、いくばくかの推測によって構成されている。十年という時をかけて拾い集めたというそれらの妥当性を推し量る術もないが、世間によく知られている事物との対照が面白い。
里見という人物像の是非はともかく、乱世を渡る才覚とひとかどの見識をもちあわせたであろうことは疑いない。


「人は組織をつくるが、組織は人をつくらない」
 里見は晩年、秘書役の伊達によく、そう言ったという。

P.178

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コメント

お、佐野眞一だ。

でもこれは未読なんですよね。
我ながら、近・現代史の政治モノは忌避する傾向にあるようです。
でもおもしろそうですね。いいノンフィクション作家だし。
頭にとめておきましょう。

特務機関というもののは、かならずしもその名の印象通りの組織だったわけではなく、上に立つ人物の質に応じて良し悪しがあったそうです。
その真偽を云々する素地はまだありませんが、里見近傍の組織は良しの類と思われ、スパイ大作戦ってカンジであります。

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