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2009年7月12日 (日)

読物 『古武術からの発想』『武術を語る』『武術の新・人間学―温故知新の身体論』

歩くこともままならぬ幼児に、走り方を教えるものがあるだろうか。

原文ママではないが、異口同音のことを初めて目にしたのはもう随分と前のことになる。当時はまだ武術的なものにたいしてわずかな知識をしかもちあわせがなく、他の分野と対照して得心したものである。

いま、その言葉が強く響いている。
巧夫は積んでは崩すというが、積めば自重で崩れるものと体感する。これまでに幾度か、ただ意味を理解せぬままに繰り返していたことが、理解を得たと思えた瞬間があった。それはレベルアップの感覚で、気分を高揚させる類のものである。
だがそれは、崩れていたのではなく積み上げている最中のことであったのだろうと今は思う。今、自分がなにをやっているのか、なにを目指すべきなのかがわからない。書物や他者の言に依れば、筋力や身体能力の向上によって、それ以前とは身体感覚が変わってしまうために不調に陥ることもあるという。
それもあろうが、どうもそれだけではないようである。

しばし前から漠とはあったものの正体は、基本と術理の乖離である。基本の中に剛柔の要となる成分がこれほど明らかに含まれているのに、基本は基本、術理は術理というふうに、分けて覚えた実感がある。明らかに含まれていると感じたのは自ら気づいたように思うからで、これは我が身の勘違い、あるいは気づいたもののみそうと知ればよいということなのか、またあるいは敢えて教えるようなことではないのかもしれず、そしてどれが正しいのか実感が持てないということになる。
あまりにも当然、あまりにも基本すぎて伝わっていない、ということがあるということなのだろうか。誰でもやれるということの功罪――創設よりわずか六十年で失伝したものがあるということなのか。

そんな疑問を抱えたまま、こたえを与えてくれるものを探していた。
甲野氏の著作を当たった理由としては、ネットにおけるキーワード検索にほどよくマッチしたためである。しかし、いくつかの書籍を当たってみたが求めるものがクリティカルに著述されているということはなかった。
甲野善紀という方は説明が下手なのか、主題を貫くことができないのか、あるいは故意に焦点をぼかしているのか。
思想的なものでは大いに首肯できるが、うならされることもあれど、技術的な部分では得心に至れない。キーワードにヒットしたサイトでもピンとこないとなれば、動画を見るか、道場を訪れるしかないということになる。

甲野氏の著作の中には、繰り返し語られることがある。
武術も技術の一種であるからには、絵画や音楽などの芸能と同様に、やれば誰もが大家になれるものではない。だが、他の技術とは異なり、逆縁の出会いに関わるものだけに、それを学ぶ者たちが「使えない」ことが許されない、と。しかしながら、術理は創設者の身体に適応したものであり、そのままそれに従って誰もが効果を得られるものではない。学ぶ者に適応した身体運用を指導できる術がないという意味において、道が未整備である、と。とある流派は「薄氷を踏むが心地で進み、ぽんと打つ」こと(意訳)を術理としているというが、創設者がそれに至るまでには立木打ちもしたであろうし、いろいろと工夫を重ねたことであろう。凡百が奥義に至るまでの道は不要というのでないならば、その道を志したものにそれは示されねばならないはずである。
江戸、明治と、時代の要請に従って武術が捨てざるを得なかったものがあり、そのたびに天才がそれを再発掘してきた。いくつもの流派が生れては消え、名人、達人が伝説となり、伝統は伝統たりえないがために合理的科学トレーニングに敗北を喫して現代に至る。
氏の研究は、かつてあったものを体得するための道のりを築くことにあるらしい。だが、著述を拝見する限りでは、進捗があるらしいことは分かるが、その内容を読み取ることはできない。

こたえらしきものは、武専にあった。
本部派遣講師にはいつも驚かされる。外見や所作からはそんな年齢には見えないが、比較的若い世代の派遣講師でも五十代、開祖の直弟子ともなれば七十歳に手が届く方もおられる。
およそほとんどの派遣講師が異口同音に伝えようとしていることが、我が身の疑念の基となっているものである。そして、こたえなのかもしれないと感じるものでもある。
初心の頃より道場で学んできた教えの中には含まれていないものと体感できるもの、剛柔の基本となり、運歩の基本となるもの。

それが真であると証明できれば、誰かに問う必要などなくなるはずなのだが。

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